教員免許は「いざというときの保険」になるのか!?

はじめに

 なんとも先が見通せない時代です。大卒の3人に一人は3年以内に離職、年金の支給開始年齢引き上げ、生活保護受給者の増加・・・暗いニュースを挙げればキリがありません。こんな時代ですから、「大学で資格や免許を取っていざという時の備えにしたい」と考える人が多いのも当然のことです。

 

大学で取れる免許の中でも、よく知られているものとして教員免許状があります。教員を目指す人には絶対必要なものですが、教員志望でないのに「親が教員免許取れって言うから・・・」「講師なら簡単になれるらしい」「いざという時の保険として」などの理由で教職課程をとる大学生も多いようです。

 

では、教員免許は本当に「いざという時の保険」になるのでしょうか?このノートは、

 

  1. 教員になる気はないけど、「保険」として教員免許を取ろうと思っている大学生
  2. 親が言うので、仕方なく教員免許を取ろうと思っている大学生
  3. わが子の将来のため「とにかく教員免許を取れ」と言っている親御さん

・・・のために、教員免許を取ることが本当に「保険」になるのかどうかについてご説明していきたいと思います。

「講師なら簡単になれる」は本当?

教員採用試験に合格しなくても、教員免許さえあれば講師になることができます。こちらの論文によると、講師希望者のうち実際に講師として勤務できている人の割合は3~4割程度のようです。講師を採用する学校側としては当然、経験・実績がある人を採りたいと考えます。経験も実績もない人に声がかかる可能性は3割を大きく割り込むことでしょう。

実際、正規教員になることを熱望している人でも講師依頼がなく、声がかかるのを待ちながらフリーターとして何とか生計を立てている人もいます。まして、転職先が決まるまでの腰かけ程度にしか考えていない人に講師依頼がくる可能性はほぼゼロに近いでしょう。

 

たとえ講師依頼があったとしても、講師の収入は高くありません。講師には正規教員と概ね同じ業務を担当する常勤講師(臨時的任用)と、授業のみ担当する時給制の「非常勤講師」があります。前者は正規教員に準じる給与が支給されますが、後者は授業1時間あたり2,000~3,000円程度です。時給で比較すれば一般的なアルバイトより恵まれているように見えますが、授業準備やテストの採点に要する時間は無給で、夏休みや冬休みなど授業のない時期も無給です(*)。年収にすると100~150万円程度が一般的で、生活保護を受給してやっと自活している人さえいるのです。

*自治体によって異なる。

 

※講師の勤務と待遇について詳しくお知りになりたい方はこちらのページをご覧ください。

予備校講師や塾講師になるのに有利?

これはもはや都市伝説と言って良いほど、事実無根の話です。予備校や塾は営利企業であり、生徒を志望校に合格させることが至上命題です。つまり、予備校講師や塾講師に求められるのは教え子の得点力を向上させ合格させる力であって、それ以上でもそれ以下でもありません。教員免許の有無など全く関係ないのです。インターネットハローワークを見ても、学習塾や予備校で「教員免許所持者優遇」などと書かれていることはまずありません。

教育実習と就活

教育実習は、多くの場合4年次の6月ごろ、3~4週間(高校免許のみなら2週間)実施されます。現在、就職活動解禁時期の後ろ倒しが検討されていますが、少なくとも現状では教育実習と就職活動のヤマ場が重なってしまいます。もし企業の面接と教育実習が重なってしまった場合、教育実習を休むことは道義上許されません(理由は後述)。「面接のために実習を休みたい」などと言えば、その場で実習中止を言い渡されても不思議はありません。とすれば、面接日をずらしてもらうしかありませんが、これとても受け入れてもらえるという保証はありません。企業は「この学生は本当は教員になりたいのではないか」「もし採用しても、しばらくしたら辞めて教員になってしまうのでは?」と考えます。面接日をずらしてもらえたケースも少なく無いようですが、そのことで不利になることはあっても、有利になることはないでしょう。

 

教育実習を受け入れることは、実習校の教員にとって大きな負担です。様々な書類の作成、計画立案、実習生への指導、実習後の授業の立て直し等々。また、実習生受け入れは児童生徒、とくに高校・大学受験を控えた中高3年生にとっても迷惑な話です。実習生が現場にもたらす負担を指す「実習公害」という言葉さえあるくらいです。そこまでして実習生を受け入れているのは、将来の後輩だと思えばこそです。教員になる気のない実習生はまさに「公害」そのものです。自治体・学校によっては教員採用試験受験を実習受け入れの条件にしているケースも見受けられます。形式的にでも受験すれば条件はクリア出来ますが、「教員になる気のない人は教育実習に来ないで欲しい」という強いメッセージだと受け止めて欲しいと思います。

 

「第二志望:教員」なら、教員免許を取っておくべき?

では、「第一志望は企業就職だが、教員にも少し興味がある」という場合はどうでしょうか。これは「少し」の程度によります。前述の通り、教育実習は就職活動に少なからず影響します。また、教員採用試験の倍率は小学校でも4~5倍、中学校や高校では教科によっては7~10倍以上にもなります。企業でフルタイム勤務しながら採用試験合格を勝ち取ることは容易ではありません。近年は社会人経験者を対象とした特別選考を実施する自治体も増えてきました。特別選考では一般教養や教職教養などの筆記試験が免除されるケースが多いようですが、一般選考よりも社会人特別選考のほうが倍率が高い傾向にあり、特別選考で受験することが必ずしも有利だとは言えません。

とはいえ、社会人になってから教員免許を 取得するには大きな困難が伴います。最大の問題は教育実習と介護等の体験(高校免許のみの場合は不要)です。2~4週間の連続休暇を許可してくれる企業は殆どないでしょうから、教育実習前に辞めざるを得ないことになります。つまり、教員免許を取らずに卒業した場合、「働きながら教員採用試験を受け、合格したら退職」というプランは成り立ちません

「教員採用試験」「就職活動」・・・いずれも楽な道ではありません。「二兎を追う者は・・・」にだけはならないよう、教員になりたい気持ちがどの程度あるのかをよくよく自問自答された上で、教職課程を取るのか諦めるのかを決断してください。

教員免許取得を勧める親御さんへ

ここまで書いてきたとおり、教員免許は当座の糊口をしのぐ手段としても甚だ頼りになりませんし、本気で教員を目指すにしても「頑張れば必ずなれる」というものではありません。近年では最難関とされる司法試験や公認会計士試験の合格者でさえ「引く手あまた」ではなくなっています。まして、教員免許などは大学に行けば誰でも取れる代物です。資格や免許は、取りやすいものほど役に立たないことは今更言うまでもないでしょう。下表(文科省統計)をご覧いただけば、教員免許が供給過多であること、言い換えれば教員免許を持っていることと、正規教員になることの間にかなりの「距離」があることを感じていただけると思います。

 

養成機関別の免許状取得者数及び教員就職者数(平成15年6月1日現在)(文部科学省サイトより)

もしお子さんに教員になる気が全く無いようでしたら、教員免許取得を無理強いするよりも、より有用な資格の取得や、就職活動に全力で臨めるようサポートすることが、より良い結果をもたらすのではないでしょうか。

ご両親から教員免許取得を迫られてウンザリしている学生さんへ

ご両親があなたに「教員免許を取れ」という理由は、「万一のときには教員免許が役立つ」「講師なら簡単になれる」「塾講師や予備校講師になりやすい」といった思い込みによるところが大きいと思われます。これらが必ずしも正しくないことは先に述べた通りです。しかしもう一つの理由として、あなた自身の卒業後のビジョンが明確でないとことも原因の一つになっていませんか?

親というのは、やはり我が子が愛おしく、心配なものです。我が子が将来をまっすぐ見据えて力強く歩んでいれば、親は安心して見守るだけで良いのですが、そうでないときには心配になってあれこれ口を出したくなるものです。

したがって、あなたが教員免許を取らないことをご両親に納得してもらいたいなら、現実的かつ具体的な卒業後のビジョンを示すことです。

 

そのためには早い時期から就職課に足を運び、色々な業界を研究して、自分が就職したい業界・職種をある程度絞り込むことです。「教員にはなりたくない」「でも、何になりたいかは決めていない」では、ご両親は不安でしょうから、教員免許取得をやめることを承知されないでしょう。あなたが卒業後のことをしっかり考えているということがご両親に伝われば、教員免許を無理強いされることもなくなるでしょう。

 

おわりに

私は教員ですから、教員を目指す人が少しでも増えてくれれば喜ばしいことだと思っています。それと同時に、一人でも多くの人が日々充実して働ける社会であってほしいと願っています。これを読んで「教職はあきらめて企業就職に集中しよう」と考えるか、あるいは「それでも教員免許を取るんだ」と考えるか・・・いずれにせよ、その決断をする上でこのノートが少しでもお役にたてれば望外の喜びです。

このノートについてお気づきの点がありましたら、アドバイス機能でご指摘いただければ幸いです。

 

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