講師(公立学校)の勤務と待遇について

はじめに

このノートは、公立学校で講師(非正規雇用の教員)として働くことを考えている大学生、社会人、教採浪人の方のために、講師の勤務内容や待遇、教員採用試験対策との両立などについてまとめたものです。なお、公立学校講師の待遇は自治体によって異なるため、参考としてご覧いただければ幸いです。
  

講師とは

講師とは、期限を付して採用される非正規雇用の教員です。講師は勤務形態により常勤講師非常勤講師の2種類に分けられます。
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常勤講師(臨時的任用教諭、臨時採用教諭)

常勤講師(臨任、臨採とも)は、勤務ができない正規採用の教員(教諭)の代替として採用されます。勤務ができない理由としては、産休、育休、病休、長期研修、中途退職などがあります。また、今後の退職者数や児童生徒の減少を見越し、新規採用者を減らして常勤講師で補うこともあるようです。なお、公立学校の常勤講師は身分上「一般職地方公務員」になりますので、副業(アルバイト)は禁止です。

仕事内容

常勤講師の仕事の内容は教諭と全く同じです。教科指導(授業)だけでなく、生徒指導、分掌業務、部活動の指導も行います。部活の顧問として大会に行くこともありますし、修学旅行に行くこともあります。ただ、当然ですが責任の重い仕事は任されません。

待遇

勤務時間は教諭と同じ(一般に7時間45分、昼休憩45分)です。新人で経験が浅いうちは、毎日夜遅くまで翌日の授業準備に追われることになるでしょうが、教員ですのでどれほど残業しても残業手当は付きません。夏季休業中(夏休み)など授業のない期間については、勤務のある場合とない場合があります(自治体や雇用形態によってさまざまです)。
  
常勤講師は、正規採用教員と同様に年次有給休暇(年休)が与えられます。一般的な付与日数は勤務期間3ヶ月につき5日間です。ただし、病休や育休はとれませんし、産休も事実上とれませんので、長期入院が必要な病気になったり、妊娠して出産が近づいた場合には、契約期間途中でも辞めるしかありません。とくに妊娠出産を理由に途中で辞めた場合、以後の講師依頼が来なくなったり、教員採用試験で不利になったりする可能性も否定できません。女性の方はくれぐれもご注意ください。

  
給与は自治体によって多少の差があり、学歴や職歴による加算もあります。大学新卒で月給約19~21万円(税込)程度です。経験年数によっては常勤講師でも月40万円以上という例もありますが、常勤講師の給与に上限を定めている自治体もあるようです。賞与(ボーナス)も支給されますが、支給基準日までの勤務期間が短いと支給額も少なくなります。また、常勤講師の場合は社会保険にも職場で加入することになります。
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非常勤講師 

仕事内容

非常勤講師は教科指導のみを行う教員です。毎週の授業と、試験の作成および採点、成績記入が主な仕事です。生徒指導や分掌業務、部活動の指導などを行う必要は原則としてありません。

待遇

担当する授業の時間だけ学校に来て、授業が終われば帰宅できます。給与は時給で、50分授業1時間につき2000~3000円程度です。仮に週15時間の授業を担当すれば、月収約15万円ということです。もちろんボーナスはありません。また、常勤講師と違い学歴や職歴による給与の上積みはありません。10年、20年と経験を積んでも、給与は新人と同じです。授業のない夏休みや冬休みは学校に行く必要がない代わりに、給与もゼロになります※。
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※自治体によっては、経験による給与の上積み、ボーナスの支給、夏休み中の給与支給があるようです(未確認)。
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授業時間以外は学校に来る必要はありませんので、持ち時間数が少ない場合、複数の学校を掛け持ちする人も多いです。頑張れば月18万程度は可能でしょう。「特別職地方公務員」ですので副業もOKで、塾講師や家庭教師と掛け持ちする人もいます。
 
自治体によっては年次有給休暇(年休)が与えられることもあります。病休、産休・育休が認められないのは常勤講師と同じです(→常勤講師の待遇の項を参照)。

社会保険は自己負担での加入(国民健康保険、国民年金)となるので、常勤講師と比較する場合、保険料分を収入から差し引いて考える必要があります。
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講師になるには 

講師登録

 講師になるには教育委員会等に講師登録をします。希望する校種・教科の教員免許状を取得済みであることが必要ですが、取得見込みでも秋頃から登録を受け付けている場合もあります(当然ですが、勤務開始は免許取得後になります)。講師登録の受付窓口は、希望する学校の種類によって異なります。

【都道府県立学校、政令市以外の市立高校】
→都道府県教育委員会

【政令市立学校】
→市教育委員会

【政令市以外の小中学校】
→都道府県教育委員会、地域教育事務所(都道府県教委のWEBサイトからリンクされていることが多い)または市町村教育委員会

登録すると、教育委員会等で作成している講師希望者リストに掲載されます。各学校は、講師が必要になった際に講師希望者リストの情報提供を受け、講師希望者に電話等で連絡します。

講師募集の件数・時期・契約期間

非常勤講師の募集は年度末に集中し、年度途中での募集は稀です。ほとんどの場合、契約期間は1年間です。したがって、勤務地や勤務校にこだわらなければ、非常勤講師希望で無職になる心配は比較的少ないといえます。

常勤講師は、冒頭で書いたとおり勤務できなくなった教諭の代替として募集されるケースが多いため、年度末でも必ず募集がある訳ではなく、年度途中にも突然募集されることがあります。契約期間も年度末までのこともあれば、年度途中で終わることもあります。年度途中で契約終了となった場合、切れ目なく次の常勤講師職にありつける可能性はほぼゼロです。したがって常勤講師だけを希望すると、どうしても無職の期間が発生します。常勤講師は副業禁止ですから、募集があれば即座に辞められるようなアルバイトしかできません。塾講師や家庭教師は難しいでしょう。

依頼から採用、勤務開始まで

講師依頼の連絡は多くの場合、その学校の校長や教頭から直接電話がかかってきます(自治体によっては教育委員会からの場合も)。突然、しかも校長や教頭からかかって来るので驚くのも仕方ありませんが、まずは落ち着いて、勤務条件などを確認しましょう。

● 常勤か非常勤か
● 契約期間
● 1週間の担当授業時数
● 担当教科・科目
● 部活動顧問の有無、内容
● 通勤方法(マイカー通勤の可否、遠方であれば高速通勤の可否や通勤手当の上限額なども)

大体において返事を急かされますが、よく知らないまま遠方の学校や問題の多い学校の講師になって、契約期間の途中で辞めるようことになれば、以後講師に採用されにくくなるだけでなく、教員採用試験にも悪影響を及ぼしかねません。少し返事を待ってもらい、その学校の様子や通勤に要する時間などを調べましょう。

なお、よほど気が進まない話でない限り、できるだけ講師依頼は受けるべきです。校長や教頭は横の情報網を持っていますので、一度依頼を断ると次の依頼が来にくくなります。どうしても受けたくないときには「遠方なので」「今年は試験勉強に専念したいので」「家族が入院しているので」など、教職への熱意を疑われない理由をつけて断ってください。間違っても「困難校での生徒指導に自信がないので」「○○(科目名)は専門ではないので」などの理由で断ってはいけません。下手をすれば二度と依頼は来なくなります(私は過去にこれで失敗しました)。諾否を決めたら、早急に連絡しましょう。
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講師経験と教員免許の上進・追加取得 

教員採用試験で少しでも有利になるようにと、隣接校種免許の取得や、二種から一種、一種から専修への上進を考えている講師の先生も多いことでしょう。免許種の追加や上進が採用試験で有利になるかどうかはさておき、隣接校種免許の取得や免許の上進をする際には、学校での勤務経験があれば、大学での単位修得のみによる方法(教育職員免許法第5条別表1)よりも少ない負担ですむ場合があります。
 

必要な勤務経験年数

必要な勤務経験年数は下記のリンク先をご覧ください。

所持する免許状を上進する場合(教育職員免許法別表3)
隣接校種の免許状を取得する場合(教育職員免許法別表8)

非常勤講師の勤務経験年数

常勤講師の経験年数は免許申請用の経験年数として100%有効です。非常勤講師の場合は1週間に担任する授業時数によって100%にならない場合があります。この点に関する取り扱いは都道府県教委によって差があります。
 

【新潟県の例】
次に掲げる非常勤講師の在職年数は、勤務年数を2分の1として、割引計算をする。
ア 小学校及び中学校勤務の非常勤講師については、その者の週担任授業時数が、週17時間以下の者
イ 高等学校及び特別支援学校勤務の非常勤講師については、その者週担任授業時数が、週14時間以下の者

【愛媛県の例】
非常勤講師の期間の在職年数の算定は、週20 時間を満度とし、週に担当する授業時数との割合により按分する。

 
例えば、高校で週15時間の非常勤講師として1年勤務した場合、新潟県ではそのまま1年分が認められますが、愛媛県では9箇月分しか認めてもらえません。

なお、法律では「講師として良好な成績で勤務した旨の実務証明責任者の証明を有することを必要とする最低在職年数」とあります。「自分は"良好な成績で勤務した"と認められるだろうか」と不安になる向きもあるかもしれませんが、よほどのことがない限り証明してくれますのでご安心を。
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常勤か非常勤か~「教諭」へのステップとして 

講師として勤務している人の中には、教員採用試験に合格して教諭となることを目指している、いわゆる教採浪人の人も多くいます。講師勤務と教採対策を両立させる上で、常勤と非常勤、どちらの勤務形態が良いのでしょうか。


児童生徒と深く関わることができる、教員としての経験を積むことができるという点では、常勤講師が有利でしょう。非常勤では授業以外で子どもと接することは殆どありませんが、常勤であれば毎日の清掃や給食、部活動や行事など、様々な角度から子どもと接することになります。小中学校では常勤講師がクラス担任を受け持つこともあるので、保護者対応の経験を積むこともできるでしょう。常勤講師としての経験が直接的に教員採用試験で点数化されることはないと思われますが、自身の経験に基づいて説得力のある発言ができれば、面接や集団討論で高い評価を得られるでしょう。


常勤講師の最大のデメリットは、学習時間の確保が難しいこと
です。平日は翌日の授業準備や分掌業務で遅くなることが多いです。中学校・高校では部活動の指導で土日に学校へ出ることも珍しくありません。そうした中で、教員採用試験に向けて十分な学習時間を確保することはとても困難です。常勤講師を経験した上で、「今年は教採に集中したいから、非常勤講師しかしない」という話もよく聞きます。


ある程度進学率の高い高校での勤務であれば、授業準備が専門教養試験の対策を兼ねられる部分もあります。しかし、それ以外では講師としての勤務が筆記試験対策につながる部分は少ないです。必然的に、常勤講師として得られる経験と、学習時間とを天秤に掛けることになるでしょう。

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  最後に

講師であっても教諭であっても、児童生徒にとって「先生」であることに違いはありません。教員としての責任と自覚を持ち、学校現場での経験を糧として、いつの日にか教諭になれるよう頑張ってください。

 

講師経験者、現職教員の方へ

  • このノートについて分からないことや、もっと詳しく知りたいことがあれば、Yahoo!知恵袋へお寄せください。
  • 不適切・不十分な記述があれば、お問い合わせフォームにてお知らせいただければ幸いです。多くの方のアドバイスをいただいて、このノートを教員志望者にとって有益なものにできればと考えています。

  

コメント: 3
  • #3

    神野茅人 (金曜日, 02 8月 2019 15:05)

    ありがとうございました。
    とても、すごく参考になりました。
    感謝致します、ありがとうございましたm(_ _)m

  • #2

    utanomushi(管理人) (土曜日, 23 6月 2018 21:37)

    残念ながら私は労働法の専門家ではないので詳細は分かりかねますが、常勤講師であっても勤務時間内の負傷等は労災(公務災害)になります。

  • #1

    ひろし (水曜日, 20 6月 2018 10:40)

    常勤講師は「一般地方公務員」との事で有れば、労働基準法の労働者と考えて良いのか?
    又、労働災害(勤務・通勤)の発生時は労災保険の対象となるのか?(日本国の憲法上全ての労働者は対象とは思うのですが)


https://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n16147