社会科(地理歴史科・公民科)の教員になるには

はじめに

 よく「社会科の教員になるのは大変だ」と言われます。社会科志望だった人が採用試験に落ち続け、他教科や小学校に鞍替えしたという話もあちらこちらで耳にします。しかし、1人でも採用があれば努力次第で社会科教員になることは可能です。このノートでは、中学校社会科、高等学校地理歴史科・公民科(以下「地歴公民科」)の教員になりたいと思っている人のために、少しでも役立つと思われる情報やアドバイスを書いてみたいと思います。


  

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なぜ高校には社会科がないのか

昔はあった「高校社会科」

 かつては高校にも「社会科」という教科がありました。しかし、1994年に再編・分割が行われて現在の「地理歴史科」「公民科」になりました。高校地歴公民科に属する科目は次の通りです(カッコ内は標準単位数)。

 

●教科「地理歴史」
《科目:日本史A(2)、日本史B(4)、世界史A(2)、世界史B(4)、地理A(2)、地理B(4)》
●教科「公民」
《科目:現代社会(2)、倫理(2)、政治・経済(2)》

 

 高校では未だに社会科と呼ばれることも多く、教科部会(校内の教科別の教員の集まり)も「地歴公民科」で1つだったりと、地理歴史科と公民科は不可分一体のものとして取り扱われている感があります。

 

社会科系の免許は3種類ある

 中学校・高校の教員免許は教科別になっています。高校の社会系科目が地理歴史科と公民科の2教科になっていることは前項で説明しましたが、教員免許も「高等学校教諭免許状(地理歴史)」と「高等学校教諭免許状(公民)」の2種類に分かれています。また、中学校で社会科を教えるには「中学校教諭免許状(社会)」が必要です。これらの免許は、四年制大学で取ることができます。すでに大学を卒業している場合、通信制大学で教員免許取得に必要な科目のみ学ぶこともできます。
 

社会科・地歴公民科教員になるための大学選び

「社会の先生になるには何学部に行けばいいですか?」

 注意しなければならないことはただ一つ、「必要な教員免許が取れるかどうか」です。教員免許が取得できる大学はこちらの文部科学省のサイトで確認できます(平成21年のデータなので最新の情報は各大学に直接確認してください)。あとは普通の大学選びと同様で、教育内容や所在地、雰囲気、授業料などを判断材料に考えれば良いでしょう。
 
 「教育学部と一般の学部のどちらが有利ですか?」という質問もよく見かけますが、どちらでも同じです。教育学をメインに学びたいなら教育学部を、歴史学や地理学、法学、経済学をメインに学びたいならそれらの学部を選べばよいでしょう。「教育学部以外の学部では、歴史や地理は学べても、教員になるための勉強はできないのでは?」と不安がる人もいるようですが、文学部でも法学部でも、教員免許を取るには教育学関連の科目が必修ですから心配ありません。

「どの免許が必要ですか?」

 社会科系の教員免許は中学社会、高校地歴、高校公民の3種類あると書きました。例えば高校で世界史を教えるには高校地歴免許が必要です。では、高校で世界史を教えたいなら中学社会や高校公民免許は取らなくても良いのかというと、そうは言い切れません。
 
 たとえば東京都や横浜市、川崎市の教員採用試験では、高校教員希望者に対して「中学校免許も持っていること」を応募条件にしています。中高併設の私立学校でも状況は同様です。また、応募条件になっていなくても、「中学校免許を持っていることが望ましい」と明記している自治体もあります。また、一部の自治体や私立学校では、地歴公民両方の免許を持つことを応募条件にしていたり推奨していたりします。
 
 また、地理歴史科と公民科は、もともと1つの教科であったことが示す通り、非常につながりの深い教科です。たとえば政治・経済で日本国憲法について教えるとき、この憲法が制定された経緯や当時の時代背景について知らなければ、テーマを深く掘り下げることはできません。日本史で松方財政や昭和恐慌を教えるとき、経済学の基礎的な知識がなければ、生徒に「わかる授業」をすることはできないでしょう。

 以上のことから、社会系の教員になりたいなら、中学社会・高校地歴・高校公民の3種類の免許を持っていることが望ましいと言うことができるでしょう。3免許の取得には80~90単位が必要で、国語や英語と比べ約1.5倍の単位数を取らなくてはいけないことになります。大変だとは思いますが頑張ってください。
 

「3種類の免許が取れない場合、どうしたらいい?」

社会系の教員免許が取れる大学は数多くありますが、中学社会・高校地歴公民の3免許すべてを取れる大学ばかりではありません。1種類または2種類しか取れない場合、どうしたらよいでしょうか。取得可能な免許の組み合わせ別に対策を示します。

①取得可能な免許が「中学社会+高校地歴」「中学社会+高校公民」の場合
 地歴と公民のいずれか1つしか取れない場合です。この場合、通信制大学などの科目履修生として24単位を修得すれば、地歴(公民)免許を追加取得することが可能です。最短在学期間は1年間で、教育実習は不要です。

②取得可能な免許が「高校地歴+高校公民」「高校地歴のみ」「高校公民のみ」の場合
 入学した大学で中学校免許が取れない場合です。卒業後に通信制大学などに3年次編入し、2年間かけて約60~70単位を取る必要があります。中学校で3週間の教育実習と7日間の介護等体験も必要です。

③取得可能な免許が「中学社会のみ」の場合
 入学した大学で高校免許が取れない場合。卒業後に通信制大学などに3年次編入し、約80~90単位を取る必要があります。高校で2週間の教育実習が必要です。最短在学期間は2年間ですが、単位数が多いため3年間かかる可能性もあります。

 上記②③から、「高校免許しか取れない」「中学校免許しか取れない」大学で教員免許を取ると、後から他校種の免許を取ろうとするときに負担が大きいことが分かると思います。最初から必要な教員免許がすべて取れる大学(学部学科)を選ぶことがベストですが、それが無理な場合でも、中高両方の免許が取れる大学を選ぶことが次善の選択と言えるでしょう。
 ただし、②③のケースでも「単位の流用」によって教育実習や教職に関する科目の単位を一部流用することができる可能性があります。詳しくは居住地の都道府県教委にご相談ください。

 

「どんな大学が有利ですか?

 これも非常によくある質問です。
 
 私立学校の教員採用は学歴が重視される傾向が強いので、なるべく難易度が高く有名な大学を目指すべきです。近年は大学院(修士課程)修了を条件とする求人も多いので、できれば大学院進学も視野に入れておきたいところです。
 
 公立学校教員採用試験では出身大学による有利不利はありません。たとえば東大卒のAさんが250点、地方私大卒のBさんが251点なら、間違いなくBさんが合格です。ただし、公立学校教採で出題される「一般教養試験」は、中学校~高校1年程度の5教科に、時事問題やご当地問題などを加えた内容が一般的です。さらに専門教養試験は大学入試より少し難しいレベルの専門科目の問題ですから、中学~高校で優秀な成績を収めてきたであろう有名大学出身者は、筆記試験において大きなアドバンテージを有していると言えるでしょう。

 つまり、公立、私立、いずれの教員を目指すにしても、中学・高校時代は一生懸命勉強しておけば間違いないということです(無論、大学時代もですが・・・)。
  

社会科・地歴公民科教員の採用状況

 社会科・地歴公民科はいわゆる5教科の1つで、教員数も少なくありません。文科省の統計によれば、中学校の全教員数に占める社会科教員の割合は13.8%です。この数値は、国理数英と比べて特に低い訳ではありません。

 しかし、よく「社会科の教員採用は倍率が高い」と言われます。本当のところはどうなのでしょうか。下表は公立学校教員採用試験の教科別競争率の全国平均値です(筆者作成)。 

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 この表からは、中高いずれの校種でも、社会科(地歴公民科)の競争率が5教科の中でもっとも高いことが分かります。ただ、競争率は自治体によってかなりの差があり、西日本では社会科でも競争率5倍を切る自治体も出てきています。。
 

科目別採用

 国語科や数学科と異なり、社会科・地歴公民科の教員採用では、科目別に採用を行っているケースが多く見られます。授業数が多い「日本史」や「世界史」の採用が比較的多いのに対し、「倫理」や「政治・経済」では採用ゼロも珍しくありません。専門外の科目しか募集がない場合は受験を見合わせる人も多いでしょう。社会科・地歴公民科全体としてはある程度の採用数があっても、科目別では数が少なくなるため、「社会科の採用は少ない」という印象を与えるのかもしれません。

 

免許所持者が多い?

 よく「社会科免許は多くの大学で取れるから、持っている人が多い(だから倍率が高い)」と言われます。全国の大学・短大で中学社会・高校地歴公民いずれかの免許が取得可能な学部学科は1706コースあります(データ出典:ベネッセ)。これは国語(765)や数学(793)と比べると2倍以上です。したがって、「多くの大学で取れる」ことは確かです。
 
 では「持っている人が多い」はどうでしょうか。次のグラフは、中学校(上段)、高等学校(下段)の教科別教員免許状授与件数(平成21年度)です。 

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 中学校では、社会科免許の授与件数が全教科でもっとも多く、5教科中もっとも少ない理科の約2倍という多さです。高等学校においては、地歴と公民の両方を持っている人数が分からないため判断が難しいですが、やはり5教科の中では多い部類に入ると言えそうです。

 

教員採用試験を突破せよ!

 競争率の高い社会科・地歴公民科では、一次試験で相当数の受験者が不合格になります。そこで、一次試験を確実に突破するには、筆記試験で高得点を取ることが不可欠になります。

※教員採用試験については下記ノートも参考にしてください。
  「学校の先生になるには~教員免許取得から教員採用試験まで」

 

合格への第一歩は過去問分析から

 教員採用試験は、自治体によって出題範囲や形式が大きく異なります。社会科・地歴公民科の専門教養試験では次のように様々なパターンがあります。

 

①選考区分に対応する分野のみ出題(例:日本史のみ、世界史のみ)

②地歴公民の全分野(日本史、世界史、地理、倫理、政治・経済)から出題
③地歴分野、公民分野のみ出題
④共通問題として②+科目専門問題として①

共通問題として③+科目専門問題として①


 私立学校では①もみられますが、公立では②~⑤のように広範囲から出題されることが多いです。また、自治体によっては学習指導要領に関する出題があったり、学習指導案の作成があったりします。受験予定の自治体の過去問を入手し、出題範囲や形式、過去問の傾向などを十分に分析しておくことが、効果的な試験対策の第一歩となります。

 

得点力アップのために

 ここでは、私が行った勉強法の中で、効果的だったと思うものをいくつか紹介したいと思います。
  
●年号暗記法
 歴史学習に苦手意識を持っている人の多くが口をそろえて「年号暗記ほど無意味で苦痛なことはない」と言います。とはいえ、公式を知らなければ数学や理科の問題を解けないのと同じで、年号暗記を避けていては日本史や世界史で高得点を望むことはできません。年号を直接書かせる問題は少なくても、年代整序問題や正誤判定問題でも、年号暗記は大きな武器になります。
 
 年号暗記の王道は、やはり「ゴロ合わせ」でしょう。市販のゴロ合わせ本も多数ありますので、自分でゴロ合わせを作るのが苦手な人は市販本を利用するのも良いでしょう。不思議なもので、市販本のよく出来たゴロよりも、「ナンセンスなゴロ」や「苦しいゴロ」のほうが記憶に残ったりします。市販本を何冊か買って、良いゴロを選び、良いものが無ければ自分で作るなどして、自分だけの「ゴロノート」を作ると良いでしょう。

 
●『トークで攻略』
 講師をしながら採用試験合格を目指す場合、学習時間をいかに確保するかが問題になります。私の場合、勤務校への通勤に毎日2時間以上かかっていたので、その間に語学春秋社の「実況中継セミナーGOES」をCDに焼いて聞いていました。このシリーズの日本史・世界史講座は現在「トークで攻略」という商品名で市販されています。通勤時間が長い方にはお勧めです。ただし、安全運転には気を付けて・・・。

●講師勤務で一石二鳥をめざす
 私の場合、採用される前年度の1年間、進学校(高校)の常勤講師として働く機会がありました。進学校で教えるには教材研究をかなり詳しく行う必要があり、そのことが結果的に専門教養の得点力アップにもつながったと思います。社会科・地歴公民科は講師希望者が多いため、なかなか思うような高校の講師になれるとは限りませんが、もし機会があれば「難しい内容を教えられるだろうか」と尻込みすることなく、果敢に挑戦してほしいと思います。
 
勉強法は人によって向き不向きがありますので、これらの方法がすべての人に効果的だという保証はありませんが、いくらかでもお役にたてば幸いです。
 

最後に

 私が高校地歴科の教員になろうと決心したとき、ネット上に氾濫する「社会科は難関だ」「何年も採用試験を受け続けて、それでも受からない人が大勢いる」「あきらめて塾の先生や全く別の仕事に就く人も・・・」といった噂を目にするたび、大いに不安になったものです。それでも「絶対に地歴科の教員になってやる」と自分に言い聞かせ、努力を重ねました。その結果、ちょっと遅咲きでしたが教員採用試験に合格して教諭になることができました。
 
 教員を目指す過程で気づいたことは、「不安になるのは努力が足りないからだ」ということです。一心不乱に努力していれば、頑張っている自分に少し自信が持てると思います。その自信は少しだけ不安を和らげてくれるでしょう。努力の結果、模試の成績など「目に見える成果」があれば、それは大きな自信になり、不安を解消してくれるはずです。

 中学社会科、高等学校地歴公民科教員の採用は大変狭き門ですが、30倍でも50倍でも合格者は必ずいるのです。難関を突破し、教壇に立てるよう頑張ってください。
 

ご質問・アドバイスをお寄せください。

  • このノートについて分からないことや、もっと詳しく知りたいことがあれば、Yahoo!知恵袋へお寄せください。
  • 不適切・不十分な記述があれば、お問い合わせフォームにてお知らせいただければ幸いです。多くの方のアドバイスをいただいて、このノートを教員志望者にとって有益なものにできればと考えています。